鯖色

はい。

ペニスのオタク

1 オナニー

 私は二〇一八年の冬から約五年かけてオナニーをしていた、と言っても過言ではない。それは気の遠くなるほど長いオナニーだ。まるで一時快方に向かったかと思えばまたぶり返し、またうなされする熱病にでもうかされているように、私はオナニーの方へ幾度となく引き摺り戻されていった。無論、私自身が本気でそれを止めようとしなかったというのも大いにあるのだが。

 

2 バイト

 バイトをしに都内の大学まで赴いた。というのも、私は自分がまともなバイトが出来ないであろうことを見越した上で、実験バイトに応募していたのだ。初めてだった。どうだったか? パソコンの前に座り、真ん中の十字の左右に点がほぼ同時に表示される。どちらが早く表示されたか、ひたすらコマンドを打ち込み続ける。そういうバイトだった。声がかかりやっと終わった、と思ったら今度は左右でなく上下で同じことをやらされた。カチカチカチカチ。何をやってるんだ。

 


3 池

 帰り道、私はAという女性にメッセージをした。大事な人だった。彼氏がいるが、とても優しく、バイトのこともそのAさんが教えてくれた。「疲れました。意外と長かったです、二時間だけでしたが」。返信はすぐには返ってこない。私は交通費を安く済ませようと、最寄りではない駅まで歩いていた。その途中に池があって、私はその池を眺めながら返信を待った。端的に言って私はその女性が好きだったが、そんなこととは関係なく、返信はない。スマホの充電もなくなってしまった。諦めて駅まで歩くことにした。池にはアヒルボートが何艘も浮かんでいた。

 


4 希死念慮

 辺りが暗くなっていた。その頃はまだ暗い道を歩く度に怯えていた。私は夜遅くまで塾で勉強などしたことはなかった。前にも好きな女性がいて、別れられた。別れられて、また好きな女性が出来た。その繰り返し。そういう進行をする指示記号がどこかに置かれてしまっているみたいだった。私は今好きな人が好きだが、それは叶わぬ恋というものだった。Aさんには彼氏がいるからだ。Aさんは私を恋愛対象としては見ていないからだ。Aさんは、他の数多いる女と同じ女であるからだった。東京までの往復で、バイト代もかなり消えた気がする。仕方のないことだ。

 


5 ペニス

 ペニスが思考の頂点に君臨しているからアイツはダメだ、と陰で年上の男性に言われていたことを知り、その男性のことを私は別に好きでも嫌いでもなかったが、酷く傷ついたのを覚えている。確かに、ペニスが思考の頂点に君臨している。他のことはどうでもいいわけではないが、二の次には違いなかった。だからといって、自分でもどうしようもないのに、なんでそんなことを言われなければならないか、とも思ったが、なりふり構わず求愛し、余裕のない素振りをしていた私のような人間はそういうことを言われなければならなかった。

 


6 通話

 「お疲れ様〜。最初はそんなもんだよ」と割に月並みな返信が返ってきた。私は嬉しくてまた通話を申し出た。了承された。私は戯れに何度も求愛したが、それは巧みに躱された。しかし、通話が楽しいのには変わりなかった。本当に頭がおかしくなっていた。好きだった。愚痴をいくら聞いてても良かったし、極めて優しく接していた筈だったが、そんなものは下心のなせるわざとしか思われていなかったに違いない。私はBと通話をし、翌日にはCとも通話をした。Bは誕生日だった。Cは誕生日ではなかった。

 


7 ブロック

 Cからブロ解されていた。やりきれない気持ちになり、Aに縋りつくも、意味はなく、私は結局Aをブロックした。Bに彼氏はいないが、いつも忙しそうなので、わざわざ声はかけなかった。しかし、結局Bとも関係は途絶えた。私は悲しかった。ほどなくして別に仲良くなった女性がいたが、その女性とも上手く行かず、というかその女性には思い人がいたため、私は自殺未遂をした。大まかに言えば、そういうことになる。

 


8 繰り返し

 求愛し、失敗し、縋りつき、拒絶され、悲しくなり、なんらかの行為に出る。愛されたかったが、愛されなかった。友達でしかなかった。その先はなかった。それはあるときにはどうということもない事実だったが、またある時には絶望的な事実だった。繰り返しを繰り返すたびに私の感情の振れ幅は小さくなったかに思えていまが、その実大きくなっていた。あらゆるAとBとCを私は憎悪しながら愛していた。

 


9 読書

 鬱が激しいと文字が読めないし、何をする気も起きない。そんな中でも手を差し伸べてくれる女性がいると、私は過度に好意を抱いてしまう。その女性の中に、今までのすべての女性が見える。そればかりから、これからのすべての女性も見える。あるのは使い古された希望と絶望。どちらも虚妄だ。私は小説を読み、書くことに逃げた。執着した。小説が好きなのは本当だが、小説を書いても意味はなかった。現実的な意味は、ほとんど。

 


10 反省

 ひどいことを言われる。度々その姿を変える女性に色々なことを言われる。的を射ていると思えることもあれば、そうでないこともあるが、とにかく耐えるしかない。私は耐えるしかない。ゆっくりと流れる場合でも、素早く流れる場合でも、私はただ耐えている。反省をしようと思っても、恋人が出来ないことには出来ない。ましてや恋人がいる人に言われても。