鯖色

はい。

くだくだ

 僕──この一人称を実生活では殆ど使わないのにも拘らず、こうして但し書きまでして使っているのは、多かれ少なかれ猫をかぶっているからであり、同時にそのことは分かってもらおうとしているからである──は、ブログを書いている、今。

 しかし、何故だ。ツイートでダメな理由は? わざわざこんなものを書くということは、文章を褒められたいからなんだろ? という声が画面向こうから聞こえてきても可笑しくはない。だけど、実際には聞こえてこない。恐ろしく、無音。耳を聾せんばかりの沈黙である。

 はあ……なんの話だったかを半ば忘れかけてしまっているが、まあいい。僕はこうやってブログを書いていて、それは褒められたいからであるが、ツイートだってそういう場合はある。褒められるに限った話ではなく、とにかく反応をもらいしたい、ということである。では、会話がしたいのかというと、それとも微妙に違う。微妙に。

 取り立てて本題なんてない──しかし言いたいことはある。これといってあるわけではないが、確かにある気もする。これは矛盾だが、間違いではない──のだが、前説はこれくらいにしておこう。

 父親が言った。「夏場はあれだけあれば大丈夫でしょ」と。コーヒーの入った段ボールが、リビングの隅で固まってある。しかし、私は申し訳ない気がした、何故か。

 簡潔に要点だけを書こうとしたが、これではまるでウミガメのスープだ。「何故か」、ではない。情報を書き加えよう。

 父親が言った。──父親の発声は明瞭で、表情は明るく、「得意げに」と言っても差し支えない様子──「夏場はあれだけあれば大丈夫でしょ」と。──あれとはコーヒーに対するものである──コーヒーの入った段ボールが、──我が家で消費されるコーヒーは大抵ペットボトルのコーヒーであり、主な消費者は僕と父親である──リビングの隅で固まってある。──だまになっていると思っていたし、最初そう書こうとしたが、だまという表現は正確ではないだろうと考え、削除した──しかし私は申し訳ない気がした──私が夏場を乗り切るまでにコーヒーをすべて飲み切ってしまうだろうと思ったから──、何故か。

 これでは読みにくいうえに、情報のむらがある。しかしまあ、こういうことを言いたい、言いたかった、というか書きたくて書いたのであるが、書きたいように書けたかはわからない。もう一度書き直そうと思う。

 季節は夏。場所はこの家の一階にあるリビングである。仮に時計の短針は大凡11時を指していたとする。この時計は約15分早くズレているが、それを勘案しても大凡11時であったし、我々はそうであることを知っていた筈だ。ちなみに、時計は予めズラされたもので、だから怠惰によって直されずにいるわけではない。なんでも早目に行動した方が良かろうという母の考えによって、この時計はズレている。しかし、スマホを見れば正しい時刻は即座に分かるうえ、家族の誰もが表示されている時刻に15分足して行動しているのだから、この計らいは無意味なことかもしれない。しかし、僕はこの時計に対して、全く白けているわけではない。なんともいえな言えないものがある。……僕の父親は言った。「夏場はあれだけあれば大丈夫でしょ」と。その時、僕とその父親は時計のことも時間のことも全くと言っていい程頭に入っていなかった。ただなんとなく、ぼんやりと、そう言い、言われただけのことでしかない。そこに時間がなかったわけではない。そこにリビングでなかったわけでもない。ただ、慣れ親しんだ当然のことでしかないので、わざわざそこがリビングがどうだったかどうかなんて、話の話題に上るはずもないというまでのことである。それで、「夏場はあれだけあれば大丈夫でしょ」である。これはコーヒーのことを指して発された言葉で、更に言えば近頃僕のコーヒーの消費量が激しいので、沢山買ってきたことを誇らしげにしているのだ、彼、つまり父は。「備えあれば憂いなし」、というわけだ。しかしながら、ここで僕は素直に喜べたかどうか。申し訳ない気がしたのである。その期待に沿えないだろう思ったからである。何も確信したわけではない。ただ、自分がふらっと自殺未遂をしたときのように、コーヒーをガブガブも飲んでしまうだろうと、考えたのだ。無論、備蓄されてあるコーヒーを全部飲んでしまったところで、それほど悲しむわけはない。だからといって、この時の僕の気持ちがなかったことになるわけでもない。ただ、何故そんなことを思ったのだろうか。妄想癖の所為か、小説の読みすぎでナイーヴになっているのか。三木清は「僅かしか読まないから害毒があるので沢山読めば害毒ないね」と言ったらしい。

 まあ概要はこうなのだが、冗長で仕方ない。個人的に──長いのは構わないが、冗漫なのはいけない。そうなってくると、最初のが一番良かった気もしてくる。もう書き直すのは止そう。それで、考えてもないことを書こうと思ったが、何も書けず、書けなかった。僕に自動筆記の才能はないようだ。